切妻屋根とは、どんな屋根を指すのかご存知でしょうか? 名作『赤毛のアン』にも印象的に登場しているので「切妻屋根」という言葉は知っているけれど、どんな形なのかよく分からないという人もいらっしゃるかもしれません。
日本だけでなく、世界中のさまざまな国でもポピュラーなスタイルとして知られる切妻屋根について、改めてメリットやデメリットを見てみましょう。
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切妻屋根とはどんな屋根?
世界中で愛されている切妻屋根について、この機会によく知っておきませんか? どんな屋根なのか、なぜ切妻と呼ばれるようになったのかなど、切妻屋根を詳しくご紹介します。
切妻屋根とはどんな形の屋根?
切妻屋根は、山型の2方向に落ちるデザインの屋根のこと。本を開いて伏せたような形の屋根、と聞くと分かりやすいでしょう。
子どもに「家の絵を描いて」というと、ほとんどが切妻屋根の家を描きます。そのくらい、日本ではポピュラーな形の屋根です。
日本を代表する伝統的な屋根の形として、切妻屋根のほかに寄棟(よせむね)屋根があります。寄棟は、切妻の両側に三角形を足して、雨が4方向に流れるようにした屋根をいいます。
切妻と寄棟は、神社仏閣でもよく見られる形式の屋根ですが、古代では切妻のほうが格上とされていました。地方によっては、切妻屋根のことを古語で「真屋(まや)」と呼ぶこともあります。
なぜ「切妻」と呼ぶの?
切妻屋根は、なぜ「切妻」と呼ばれるようになったのでしょうか。それを知るには、屋根部分を構成するパーツの名前を知る必要があります。
切妻屋根は、よく伏せた状態の本にたとえられるといいました。その例で説明すると、本の背表紙に当たる部分を「大棟(おおむね)」といいます。
大棟から2方向に向かって、本の表紙と背表紙のように屋根が構成されています。その先端部分、雨樋が取り付けられるところは「軒先(のきさき)」と呼ばれます。
残りの2方向、本でいうと表紙と裏表紙の上下の端を「破風(はふ)」といいます。この破風のある側の外壁が「妻壁(つまかべ)」です。
切妻屋根は、妻壁のところで屋根を断ち切ったように見えることから「切妻」と呼ばれるようになったのです。
余談ですが、妻壁の「妻」には「端」という意味があります。実は刺身のツマも語源は同じで、端に添えられるものを古くは妻と呼びました。
妻壁は、切妻屋根の三角部分を構成する壁のことですが、妻壁のある建物の側面全体を「妻面(つまめん)」と呼ぶこともあります。
切妻屋根の多くは、屋根が妻壁よりも外側にはみ出した構造になっています。このはみ出した部分は「ケラバ」と呼ばれています。語源は昆虫のオケラで、オケラの羽根が短いことになぞらえて、ケラバと呼ばれるようになったといわれています。
世界各国でもポピュラーな切妻屋根
切妻屋根は日本だけでなく、世界各国で見られる屋根の形です。カナダを舞台とする名作小説『赤毛のアン』の原題が『Anne of Green Gables』、日本語に直訳すると「緑の切妻屋根のアン」ということからも分かるでしょう。
イギリスからの入植者がアメリカ大陸に渡ってきた時、造られた家のほとんどが長方形の家と切妻屋根というシンプルなデザインでした。入植者が最初期に集落を築いた場所のひとつがケープコッドだったため、シンプルな切妻屋根の家を「ケープコッド・スタイル」と呼んでいます。
現代のアメリカでも、ケープコッド・スタイルをベースにした家は珍しくありません。切妻屋根に、「ドーマー」と呼ばれる三角屋根のついた窓を組み合わせた「ジョージアン・スタイル」の家も人気となっています。
北欧では、冬の積雪に備えて急勾配の切妻屋根にしている家が多く見られます。シンプルな形の切妻屋根なら、急勾配にしておくことで自然と雪が落とせるからです。
南欧の切妻屋根は、屋根が妻壁の位置で断ち切られていて、ケラバがないことがほとんどです。対して日本の切妻屋根の多くは、妻壁の劣化を少しでも防ぐため、ケラバが造られていいます。
南欧は雨が少なく空気も乾燥しているため、妻壁の劣化をそれほど気にしなくてもよいからでしょう。このように切妻屋根は、地域や気候に合わせてさまざまなアレンジをされながら愛され続けているのです。
切妻屋根にするメリット
日本で一番愛されているといえる切妻屋根。その理由は、メリットが非常に多いからでしょう。改めて、切妻屋根のメリットを見てみましょう。
建築費を抑えられる
切妻屋根の大きなメリットといえば、施工費用が安いこと。構造がシンプルなため、屋根材のロスがほとんどなく、その分コストがかかりません。
工期も短くて済むため、人件費の面から見ても安上がりとなっています。建築の資金に不安がある場合は、切妻屋根にしてコストを抑えるのがおすすめです。
また、どのハウスメーカーでも切妻屋根の施工例は非常に多く、造り慣れているため、施工不良のリスクが低いのも切妻屋根のメリットのひとつです。
屋根材の選択肢が豊富
屋根を葺く屋根材には、瓦、スレート、鋼板などさまざまなものがあります。切妻屋根なら、ほぼすべての屋根材が使えると考えてよいでしょう。
切妻屋根は、日本で一番多く採用されているデザインだといいました。そのため建材メーカーの多くは、切妻屋根を基準に屋根材を開発・製造しているのです。
メンテナンス性がよい
切妻屋根は、施工費を安く抑えられるといいました。それだけでなく、メンテナンスの費用もそれほどかからないのです。
切妻屋根はシンプルなデザインなので、トラブルのリスクが低くなっています。定期的な点検でチェックするポイントも限られているので、見落としが少ないと考えてよいでしょう。
さらに、万が一雨漏りが起こった際にも、不具合のある箇所を突き止めやすく、補修がしやすいという利点があります。
実は雨漏りの箇所を特定するのは、慣れた屋根職人でも難しいものです。その点、構造がシンプルな切妻屋根は、不具合が起こりやすい場所も限られています。
雨漏りは、建材の接合部から起こることが多くなっています。切妻屋根の場合、屋根の面をつなげている大棟か、屋根と妻壁の接合部で起こることがほとんどなので、不具合のある箇所を見つけやすいのです。
補修をすることになった場合も、構造がシンプルな切妻屋根は、足場が設置しやすくなっています。その結果、補修工事にかかる費用も抑えられるのです。
また切妻屋根は、2つの傾斜面を合わせたシンプルな構造のため、ひとつの傾斜面の面積が広いという特徴があります。太陽光パネルを設置する際にも、切妻屋根は適しているといってよいでしょう。
将来的に屋根のリフォームを考えている人にも、切妻屋根はおすすめです。
通気性がよい
切妻屋根は、三角形にとがった形をしているため、屋根裏のスペースが広くなっています。そのため通気性がよく、家の防湿対策に適しています。
高温多湿の日本では、湿気がこもることで屋根が劣化してしまうことがあります。通気性のよい切妻屋根は、家を長持ちさせることにも向いているのです。
さらに通気性をよくするには、妻壁の部分に換気口をもうけるとよいでしょう。建物内部の湿気も逃がしてくれるので、快適に過ごせる家になることでしょう。
屋根裏の空間が広いと、夏の日差しで屋根の温度が上がっても、室内には熱が伝わりにくくなります。反対に冬は、屋根裏の空間があることで、室内の暖かさを逃しにくくなります。
屋根裏に断熱材を入れることで、さらに冷暖房効率が上がることでしょう。切妻屋根の家は過ごしやすいからこそ、これだけ普及してきたともいえます。
雨や雪を落としやすい
切妻屋根はシンプルな構造なので、雨や雪を落としやすくなっています。切妻屋根の傾斜を急角度にするほど、その効果は高まります。
雪深い地域では、昔から急角度の切妻屋根が造られてきました。屋根に雪が積もった状態が続くと、湿気で屋根が傷んだり、雪の重みで倒壊したりといった危険性があるからです。
雨や雪が落ちやすければ、屋根が乾くのも早くなります。屋根の耐久性を保つにも、切妻屋根はぴったりといってよいでしょう。
和風と洋風のどちらにもマッチする
切妻屋根は、世界各国で見られる構造の屋根です。つまり、和風と洋風のどちらにもマッチするデザインだといえるでしょう。
和風の家にしたいなら、昔ながらの瓦の切妻屋根がおすすめです。一方で洋風の家にしたいなら、スレートや鋼板の切妻屋根が合うでしょう。
屋根材の選択肢が豊富な切妻屋根なら、個性的な色の屋根にすることもできます。屋根以外の部分のデザインに凝った家なら、シンプルな切妻屋根がこだわりポイントを引き立ててくれるはず。
汎用的なデザインだからこそ、今も昔も変わらず世界中で愛されているのです。
切妻屋根のデメリット
実は切妻屋根には、これといった決定的なデメリットがありません。あえてデメリットを挙げるとすると、以下の2点になります。
妻壁の部分が劣化しやすい
切妻屋根の家は、妻壁がむき出しで太陽光や風雨にさらされるため、劣化しやすくなっています。雨漏りなどのトラブルの多くは、妻壁の部分で発生します。
これは切妻屋根の構造上、仕方のないことといえます。少しでも劣化を防ぎたいなら、ケラバを長くするのも手です。
また近年では、紫外線に強い、撥水効果があるといった、さまざまな機能性塗料が出ています。そういった塗料で外壁を塗ることで、トラブルのリスクを引き下げられます。
代表的な屋根型のため、個性が発揮しづらい
切妻屋根は代表的な屋根型のため、近隣の家と見た目がかぶってしまうことが珍しくありません。またシンプルなデザインが、単調で面白くないと感じる人もいることでしょう。
しかし、屋根材や色、傾斜の角度を工夫すれば、多少なりとも個性を出すことはできるはず。たとえば急勾配にすることで屋根の色を目立たせ、外壁の色とコーディネイトしてマッチングを楽しむといった方法です。
ごく汎用的な切妻屋根で建築にかかる費用を抑えて、浮いた金額をほかの個性的なパーツに回すのもよいでしょう。妻壁の換気口の形を工夫する、妻壁や破風の部分にデザイン性のある飾りを取り付けるといったことで、印象もがらりと変わります。
切妻屋根の基本は左右対称ですが、片側の屋根を長く伸ばしてアシンメトリーにする方法もあります。その場合、屋根の長さは極端に変えたほうがよいでしょう。
片一方を少しだけ長くすると、ただ単にバランスの悪い屋根に見えてしまいますので、極端に長さを変えてギャップを際立たせることで、デザイン性のあるおしゃれな印象になります。
切妻屋根はシンプルなだけに、飽きの来ないデザインでもあります。いろいろと工夫して、自分好みの屋根に仕上げてください。
まとめ
日本の住宅を代表する屋根型、切妻屋根について詳しくご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。切妻屋根はシンプルな形状なので、和風から洋風までさまざまなタイプの家にマッチします。
施工費や修繕費用も安く上げることができ、通気性や防湿性にも優れた切妻屋根。家を建てる際に屋根の形に迷ったら、切妻屋根にしておくことをおすすめします。
タクトホームでは、さまざまな建材メーカーとの取引があるため、屋根材や色で個性を出したいというご要望にもしっかりと応えられます。豊富な施工経験から、切妻屋根の個性的なアレンジのご提案もできるので、ぜひお気軽にご相談ください。